ミスが増える、ぼんやりしている、遅刻が増える

035106ミスが増えたり、ぼんやりしたり、遅刻が増えるといった行動の変化が出てくるのはどうしてですか?

こうした行動の変化の背景には、しばしば認知機能障害といわれる症状が存在します。認知機能障害とは、認知症でみられる記憶の障害のほかにも、注意や遂行機能の障害など様々なタイプがあります。遂行機能とは、何かをしようとして計画を立案し、確実に実行し、何か予期せぬ出来事が起こった場合にも柔軟に対応する能力を指します。
こころの病気のうち、とくに統合失調症には認知機能障害が多く存在し、その日常生活や社会生活に大きな影響をおよぼすことが知られています。様々なタイプの認知機能のうちで、注意、記憶、作業記憶(何かを実行するために一時的に保持しておく記憶;電話をかけるために電話帳にある電話番号を憶える)、遂行機能にとくに顕著な障害が認められていますが、個人によるばらつきも大きいです。約85%の患者さんに何らかの認知機能障害がみられます。発症早期から認められ、発症後の進展はゆるやかで、発症してから治療を受けるまでの期間が短いほど認知機能障害は軽度であることが知られています。よく薬のせいではないかと心配される場合もありますが、適切な薬の種類および量であれば、認知機能にはむしろ改善する効果があることが報告されています。ただし、多くの種類の薬を併用すること(多剤併用)や量が多すぎると認知機能を低下させてしまうことがありますので、薬の量が多いと感じられる場合は、主治医とよく相談することが重要です。
統合失調症ばかりでなく、うつ病などの気分障害でも認知機能障害が認められることが知られています。遂行機能障害が比較的強いという報告もありますが、まだまだはっきりしたことはわかっていません。また、気分の状態が改善するとともに認知機能が回復する場合もありますが、しばしば気分が改善しても認知機能障害が残存し、日常生活行動や復職の妨げになる場合があります。高齢者の場合、こうした認知機能障害がみられると、思わず認知症になったと早合点される場合もありますが、うつ病でもこうした症状が認められますので、ご注意ください。

自分にこうした行動の変化が出たときはどうすればいいのですか

うつ病にかかった場合、実際はそれほどミスが増えたり、ぼんやりしているわけでもないのに、本人はそのように感じる場合があります。そうした感じ方は、不安や自信の低下など、うつ症状のために生じている可能性があります。一方、本当にミスやぼんやりしていることが増え、周囲から指摘されるような場合は、もう少しうつ症状が進んでいる可能性がありますので、早めに主治医にご相談されることをお勧めします。
一方、うつ病から気分が回復し、職場に戻ったはいいが、ミスやぼんやりしていることが多く、遅刻などもみられ、上司や同僚から指摘されるようなときは、認知機能が十分に回復していないと考えられます。したがって、復職の際に、徐々に仕事量を元に戻していくリハビリ出勤などをはさんで、焦らずに回復を図ることが必要です。どうしても焦りが強い場合は、むしろうつ病自体が十分に回復していないと考えてもいいかもしれません。
統合失調症の患者さんも再発の前ぶれ症状として、ミスが増えたり、ぼんやりすることが増える場合があります。なかなか自分で気づくのは大変ですが、再発兆候は毎回パターンが似ているので、ノートなどに前ぶれ症状を書き留めて、自分で時々チェックしてみるのもいいかもしれません。早めに気づき、何らかの治療等によって再発を防ぐことは、長期的に病状を改善するうえでとても大切なことです。
一方、認知機能障害が持続する場合が多いことは、すでに記したとおりです。現在は、認知機能に効果がある薬が使われるようになっています。また、認知機能に対するリハビリテーション(認知リハビリテーション)もわが国で徐々に広まりつつあります。認知リハビリテーションは、生活技能訓練や就労支援など、その他のリハビリテーションと組み合わせることで、よりよい効果を発揮することが知られています。こうしたリハビリテーションができる施設を探すのもいいかもしれません。

身近な人にこうした行動の変化がみられたときはどうしたらいいのですか

周囲から見てミスやぼんやりしていることが増えてきたら、うつ病でも統合失調症の患者さんの場合でも、症状が悪くなる前兆である場合がありますので、早めに病院を受診し、主治医と相談することを勧めてください。統合失調症の場合、すでに幻覚や妄想が出現し、そうした症状にとらわれて上の空になっていることもあります。その際に、本人が納得していないのに、いきなり病院に行くように言われると、”病人扱いをされた”と傷つくことも多いので、まずは”疲れているように見えるが”と前置きし、睡眠や食欲から疲労感や気分などについて十分に話を聞いたうえで勧めるのがよいでしょう。
うつ病の回復期、ある程度気分が改善し復職を考えている時期に、自宅での生活でミスやぼんやりしている状態がまだ続いているような場合は、焦らずに復職のためのリハビリテーションやリハビリ出勤から徐々に社会復帰を果たせるようにアドバイスする必要があります。自宅でも家事の手伝いなど、リハビリに役立つ活動があります。とくに料理などでは、メニューを決めて、メニューのために必要な具材を考え、それらをスーパーに行って買い求め、おかずやご飯などがおよそ同じ時間に出来あがるように計画を立てて、計画どおりに進めていく必要があります。一方、あると思っていた調味料が足りない、あるいは必要な料理の具材がそろっていなかった、などのトラブルに見舞われることもしばしばあります。そんなときでも臨機応変に対応しなければなりません。まさに遂行機能を鍛えるトレーニングといえます。こうした日常生活行動の中で自分の状態を把握し、回復を実感することで、自信をつけて復職することが可能になります。
統合失調症の場合、すでに記したように比較的持続的な認知機能障害がみられます。決して、ミスを責めたり、励ましたりすることで改善するものではありませんし、かえって混乱しやすくなります。先にも挙げた認知リハビリテーションのほか、日常生活の中でのちょっとした工夫が役立つことがあります。ミスをしたり、ぼんやりするということは、注意集中の障害と考えられますが、注意集中がそがれる原因は実は様々です。たとえば、環境刺激に敏感なため、今取りかかっている課題に集中できないといったこともあります。私たちは、様々な環境刺激の中で生活しているのですが、今の自分にとってあまり関係のない刺激は自動的に無視することができます。これは、フィルタリングといって、不必要な刺激で頭が混乱しないように作用していると考えられています。
統合失調症の場合、このフィルタリング機能が十分に働かないことがあり、そうすると常に頭の中に雑多な刺激が入ってくるために、注意を集中させることが難しくなるわけです。したがって、より静かな環境で作業をするとか、目標とする活動を少なくするとか、注意や記憶への負荷を軽くするために、やらなければならないことを紙に書いて目につくところに貼っておくなどの方法があります。こうした工夫によって、余裕をもって生活ができるようになり、ミスやぼんやりするといった行動が減ることが期待できます。

(出典:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」より)